タクシーの規制撤廃問題に対する

基本的姿勢と対策について

1999年1月7日
自交総連第2回常任中央執行委員会

1.想定される規制撤廃へのシナリオ

 政府・運輸省は、99年3月までにまとめられる運政審答申を受けて、2001年4月の規制撤廃実施にむけ、道路運送法の改正法案作りに着手するものとみられる。
 国会への法案提出は、準備が順調に進んだ場合、早ければ99年秋もしくは2000年春がもっとも可能性が高い。
 運政審答申の内容そのものは、規制撤廃すなわち需給調整規制の廃止(参入・撤退と増減車の自由)を前提としていることから、この間の審議経過を勘案すると、参入規制は免許制から許可制へ、運賃制度は認可制を維持した上で上限価格制へ−が基本原則として貫かれることは疑いようがない。
 問題の社会的規制の行方では、東京・大阪に見られる運転者登録制度の地方的拡大で「運転者の資質の確保」をはかる方向であり、最大の対決点となった『法・個の折衷形態』(企業内個人タクシーの是認など)は、先送りされる可能性が大となっている。
 いずれにせよ、自交総連が主張しているタクシー運転免許の制定など実効ある措置は、運政審委員をして真面目に検討されようとはせず、議論の外におかれ、競争原理の徹底のもとに実質的には『後は野となれ、山となれ』式の答申となることが想定される。
 そして、99年4月から秋にむけて、闘争の舞台はいよいよ運輸省へと移ることになる。

2.当面する闘争の焦点と課題

 当面する闘争の最大の焦点は、規制撤廃の計画を阻止するため全力をあげることにある。
 政府・運輸省の既定のシナリオどおりに進ませず、規制撤廃を断念せざるを得ない状況をつくりだしていく可能性はまだ残されている。
 また、規制撤廃阻止闘争の強弱の度合いは、最終的には規制を維持させる道につながるものであるし、許可制となった場合においても、そのハードルを高めるものとなる。
 運政審答申は、前述したように「撤廃後のタクシー」の安全性、公共的輸送機関としての役割を担保するものとはならないだろう。
 その一方で、現状のタクシーは規制緩和の段階的措置の推進(一定の枠内での増車・新免、行政による減車指導の放棄とゾーン運賃制の導入)により、安全性、環境への影響、移動の確保の面において、すでに深刻な事態を全国いたるところで引き起こしている。
 これまで安全性の根幹的部分をなしてきた労働者の労働条件にいたっては、賃金、労働時間ともに最悪の状況であり、くらしと労働はたえがたき様相を呈している。
 そしていま、自交総連はもとより、すべての関係労働組合にとって、その存在価値を問われる99年春闘として、われわれは、労働条件改善と権利確保にむけた闘いの先頭に立たなければならない任務を背負っている。
 規制撤廃阻止の闘争前進の条件として、第1にいえることは、その影響・被害を被るのは、そして現実に被っているのは、ハンドルを握るタクシー労働者と利用者・国民である、という点である。
 共同による反撃の基本的な発展要因は、まさにここにある。
 労働者の統一した力による反撃、実態をふまえた抵抗こそ、規制撤廃阻止の展望を切り開く前提条件であることを、われわれはまず何よりも重視しなければならない。
 この場合、労働者の現実の切実な要求を大切にしつつ、緊急の課題である『多すぎるタクシーを減らせ』を旗印に、ひきつづき増車・新免反対、減車の実現に全力をあげることが重要である。
 同時に、『地域に密着したタクシー』の視点を重視し、住民との共同のもとに、福祉タクシーや乗り合いタクシーなどの拡大、自治体補助の充実、優先通行権の確立などにむけて奮闘しなければならない。
 これらは、いついかなる状況下であろうとも、労働者そして利用者の利益を擁護してたたかう労働組合としての当然の責務である。
 第2は、規制撤廃を実施に移すにしても、法律改正の手続きをふまねばならず、国会での審議が必要となることである。
 先の参議院選挙の与野党逆転の政治的変化をふまえ、解散・総選挙の可能性も含め、さらに今年4月のいっせい地方選挙での、タクシー規制撤廃に反対する勢力の飛躍的勝利によって、「法律改正をさせない」方向に追い込む可能性を追求しなければならない。
 その保障となるのは、規制撤廃ノーの圧倒的世論をかちとることであり、われわれは、そのためにこそ全力をあげる。

3.忘れてはならないタクシーの特性と役割、その将来像

 タクシー労働者は、『販売、生産(運転)、集金』を一手に担っている。
 こうした特性はタクシー特有のもので、他に類を見ないものであるが、われわれに多くの事柄を示唆してくれている。
 何よりも重要なことは、この特性自体、「過少な資本力で営業可能」であることとも相まって、『個人』あるいは『個人の協同』による営業がおこなわれても決して不思議ではないということである。
 ここで問題になるのは、その運転者が文字通り、タクシーの『プロドライバー』としての資質(資格)を保持しているかどうかであり、利用者の期待に応えるにふさわしいものであるのかどうかである。
 われわれが提言しているタクシー運転免許が制度として確立されることになれば、『個人』あるいは『個人の協同』による営業形態の合理性はますます明らかとなり、将来的にも利用者・国民の社会的合意を形成するに至るであろう。
 タクシーとはそもそも、そのようなものとして発展する方向性を秘めているものであり、『法人タクシー』が主体の日本と違って、アメリカやヨーロッパで『個人』主体の営業が行われているのは、以上の事柄に起因しているとも考えられるのである。
 むろん、日本においては、これまで一定の役割を果たしてきた法人タクシーが、すべて否定されるということを意味しているわけではない。
 しかしこの場合においても、それは法人タクシーとしての存在意義が、タクシードライバーによって認められることが前提であり、『個人』『法人』いずれに従事するかどうかは、ドライバーの選択権にゆだねられるべきで、そうした『運転者優位のしくみ』を確立させる必要がある。いうまでもなく、この根幹をなすのがタクシー運転免許の制度的確立である。
 労働組合の任務、あり方もまた変化せざるを得ない。
 タクシー発展の方向についても、労働組合が積極的に政策提言を提起することが大切であり、高齢化の進行、福祉の充実の課題に対応する新たなタクシーサービスの提供や地方都市・郡部における移動の権利を確立する視点からのタクシー輸送形態の模索、都市部での公共的輸送機関優先の交通政策への転換などは、とくに重要なものとしてとりくまなければならない課題である。
 このような問題を含め、いまあらためて、タクシーのあり方と将来像についての検討と大衆論議を行うことが求められている。

4.法人タクシーの存在意義と経営責任の追及

 自交総連は、規制撤廃阻止闘争の本格化にあたり、すでに「新たな段階を迎えたタクシー規制緩和と今後の課題」(規制緩和対策プロジェクト報告、98年1月)を発表し、「規制撤廃後の場合の対応策」についてもいくつかの提言を行った。
 その中で、指摘されているのが「法人タクシーの意義の低下」に関わる問題である。
 簡潔に引用すれば、規制が(破滅的に)撤廃された場合、法人タクシーの役割と地位も変化するであろうということであり、「(異常な)供給過剰状態の発生」は、リース制や企業内個人タクシーの導入をもたらし、それは結果として、単に労働者から、その労働の成果を搾り取るだけの存在へと変質する恐れが強い。すなわち、法人タクシーは、その存在意義を失ってしまうばかりでなく、日本のタクシー事業の発展にとって、有害ともいえる存在になる可能性さえある−ということである。
 このような事態が到来するとすれば、われわれとしては、タクシー労働のあり方の転換を進めざるを得ない、ということにならざるをえない−。
 以上の指摘は、撤廃後に起こり得る事態の危険性を警告し、それに備えることの大切さを強調するものであった。
 法人タクシーの存在意義についてのこの視点は、今日の時点においても重視されなければならないものである。
 自交総連は、これまで二つの道の選択(「安全で利用しやすいタクシーの確立と事業の健全な発展の道を模索するのか」それとも「『自由化』による賃金・雇用と安全性の破壊、法人壊滅と無秩序・ルールなき競争の道を許すのか」)の問題を法人事業者にも投げかけ、その重大性を指摘してきた。
 とくに事業者の規制撤廃問題に対する姿勢、さらには大変な事態にある労働者の条件悪化の改善のためにどのような対策を現実的にとるのか、その経営責任を問うてきた。
 法人事業者はいま現在、その「法人」の名に値する任務と役割、雇用責任をどれだけ全うしているか−。
 免許事業者としてのモラルをどれだけもつているのか−。
 いままさに、規制撤廃がいまだなされず、道運法にもとづく規制条件のもとにある現状においてさえ、このことが個々の法人事業者および事業者団体に鋭く問われているのである。
 この10年間をふり返ってみても、実に多くの問題点にふれねばならない。90年以降、3度にわたり行われた社会的水準の労働条件への接近、賃上げと賃下げなしの労働条件短縮の実施が『社会的公約』として認可されたはずの運賃改定に対し、どれだけの経営者がまともに応えただろうか。
 バブル崩壊後、減車措置による労働者個々人の運収増効果の課題が、当時の政府・運輸省でも重視され、経営者の努力が促されたときに、実効ある労働条件改善のための対応がとられただろうか。
 現在においても、依然として法人経営としての雇用責任や社会的役割の任務を放棄し、タクシー版リストラ「合理化」に血道をあげ、労働者のくらしと労働、安全性の確保をないがしろにする経営者が余りにも多すぎる。
 まさに、免許事業者としては失格といわざるを得ない。
 われわれは、経営者のモラルを問い、さらに経営責任を問い、実行する意思さえあれば即時可能な減車の実現、社会的水準の労働条件確立への努力をなさしめるために、職場・地域からの「法人の存在意義を問う闘争」として大々的に99年春闘を展開しなければならない。

5.いかなる事態にも対処する力量強化を

 どのような立派な方針・政策も、それを可能とする力がなければ、実現させることはできない。
 いかなる事態にも対処できる量・質の両面における力量強化をはかることは今日、われわれに求められている最大の課題である。
 その第1は、組織労働者以上に辛苦をなめさせられている大量の未組織労働者の組織化をはじめとして、5万人の自交総連構築を一日も早くなしとげることである。
 第2は、いかなる事態に遭遇してもたじろがず、適時・適切な指導を行える中央・地方における産別組織指導部の確立をはかることである。
 この点では、新しい幹部・活動家の育成を重視するとともに、全国各地のすぐれた闘争経験に学び、リストラ「合理化」への対応や倒産・身売り対策、企業再建闘争の分野におけるこれまでの成果と教訓を重視し、それらを『わがものとする』努力がなされる必要がある。
 第3は、力量強化をめざしての発想の転換の課題である。
 それは、これまで無関心であったり必要でないと考えていた、しかし今日時点では重要な課題として浮上している、たとえば不安定雇用労働者の組織化、労働者供給事業のとりくみ、個人加盟方式による地域タクシー労働組合の構想と具体化などにむけて、いっそう強化をはかる必要がある。
 第4は、それぞれの地方・地域実情に見合ったタクシー輸送のあり方や事業形態について、その地域的分析にもとづく政策提言を行える集団的能力を身に付けることを重視しなければならないことである。
 とくに、今日の規制緩和の段階的措置にもとづくそれぞれの地域への影響、規制撤廃後に想定される事態の進行は、大都市、地方都市、郡部などにおいて同一ではありえない。
 それだけに、地方産別組織の地域のタクシー発展に及ぼす影響の度合いは、決定的な重みを持つことになると思われる。
 以上述べてきた諸課題の解決にむけ努力することなしに、今後の闘いの展望を切り開くことはできない。
 われわれは、それが規制撤廃阻止闘争の今後の闘いの行方を左右するものとして、そのとりくみ前進のために全力をあげなければならない。
以  上



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