自交労働者No.994、2025年4月15日

いかなる白タクも不要

一度失われた公共交通は元に戻らない

 国や大企業は、「ライドシェア」という自家用車を使った無許可タクシーの合法化を進めています。
 しかしライドシェアは、@安心・安全を守るためのコストをかけず利用者を危険にさらす、A労働者の権利が失われ、低賃金で無権利な働き方が社会に広がるといった重大な問題があります。


 コロナ危機の後、生活苦によるタクシー運転者の激減とインバウンド需要の増大で、日本中でタクシー不足が起こりました。
 政府はその解決策として、既存の公共交通への財政支援ではなく、ライドシェアの導入を掲げました。これをきっかけに、23年秋から政財界で大議論が巻き起こったのです。

RS全面解禁2つのルート

 そして現在、ライドシェアの全面解禁に向けて、2つの路線が同時進行しています(図)
 1つ目が、新しい法律を制定するルートです。日本では、自動車で運賃を取って他人を乗せるためには、道路運送法によりタクシー事業の許可が必要です。そのため、「誰でも参入できる」ライドシェアの実現には、国会で新法を成立させなければなりません。
 ライドシェアをやりたがる政財界のメンバーは、口をそろえて「『日本版ライドシェア』では不十分だから新法をつくって真のライドシェアを解禁すべきだ」と主張します。
 とくに、海外ライドシェア企業に出資するソフトバンク・グループの傘下にあるLINEヤフー社の川邊健太郎会長は、タクシー業界を既得権益と腐し、政府会議の場でライドシェア全面解禁を執拗に要求しています。
 2つ目は、例外措置を無限定に拡大していくルートです。
 これは、道運法第78条に限定的運用として規定されている制度を緩和して、海外のライドシェアへ近づけていくというものです。
 国土交通省は、24年7月に「交通空白」解消本部を立ち上げ、『日本版・公共ライドシェア』のバージョンアップ推進を続々と行っています。
 自交総連は、「『日本版ライドシェア』は一時的な措置であり、解除基準を策定すべき」と国交省を追及しましたが、明確な回答を避けられました。(→詳細)

タクシーは足りている

 自交総連は、いかなる形態の白タクも不要であり、現状でタクシーは十分足りていると考えています。
 安心・安全を守るためにコストをかけるタクシーと、ライドシェアが市場競争することになれば、一番被害を受けるのは利用者とタクシー運転者です。公共交通が破壊され、一度失われたものは二度と元には戻りません。
 試しにやってみてダメだったら戻せばいいと言うひとがいます。しかし、この理屈はそのために払われる犠牲や、これまで安全確保のために築き上げてきた血のにじむような努力を軽視するもので、決して許されません。

要請と交渉でRS反対訴える

3・6中央行動

 自交総連は3月6日、中央行動を実施しました。午前中の個人請願提出行動の後、午後から代表が国会議員要請と国交省・厚労省交渉を行いました。また、4月3日にライドシェア問題について全タク連と意見交換を行いました。

RS全面解禁阻止への協力を

計52人の国会議員に要請

日本共産党の堀川あきこ議員(写真右)へ要請書を提出=3月6日、東京・衆議院第1議員会館
日本共産党の堀川あきこ議員(写真右)へ要請書を提出=3月6日、東京・衆議院第1議員会館

 自交総連の26人は、ライドシェア全面解禁阻止と地域がかかえる公共交通問題について国会議員へ要請行動を行いました。
 要請先は、国土交通委員、与野党のタクシー議連代表、日本共産党に加えて、ライドシェア新法を国会に提出すると公表している日本維新の会共同代表の計52人です。
 要請の趣旨は、@ライドシェア全面解禁阻止への協力、A「ライドシェア新法」反対、B『日本版・公共ライドシェア』の緩和反対、C地域公共交通維持・充実の補助金増額への賛同などです。
 次のような反応がありました。

 〇 日本共産党・堀川あきこ衆議院議員(国土交通委員) 議員本人が対応。要請内容に賛同。
 〇 日本維新の会・前原誠司衆議院議員 議員秘書が要請書を受け取り、議員に伝えると対応。
 〇 立憲民主党・松田功衆議院議員(国土交通委員) 秘書が対応。「全自交から話を聞いている。ライドシェアは反対」と回答。
 〇 立憲民主党・辻元清美参議院議員(野党タクシー議連・会長) 秘書が対応。「大阪はライドシェアをごり押しされた。維新に不信感がある」と回答。
 〇 自由民主党・朝日健太郎参議院議員(国土交通委員会・理事) 秘書が対応。「ライドシェアは基本的に反対。日本版は事業者団体の意向と同じ」と回答


待機中の手待ち時間は労働時間

国交省・厚労省の係官と交渉

自交総連の代表(写真左)と厚労省の係官(写真右)=3月6日、東京・衆議院第1議員会館
自交総連の代表(写真左)と厚労省の係官(写真右)=3月6日、東京・衆議院第1議員会館

 【国土交通省交渉】 自交総連は、ライドシェア・規制緩和問題について、日本版ライドシェアの解除基準を早急に策定するよう要請しました。  これに対して国交省は、「引き続き実施効果を定期的に確認した上で、解除については判断していく。バス・タクシー、公共ライドシェアも含めて既存の交通体系との整合性を総合的に判断した上で、実施効果の検証を行う必要がある」と明確な時期の言及は避けました。
 運賃改定問題については、バスでは他の産業との賃金格差を考慮した運賃改定が行われているが、タクシーでも同様の対応ができないのか追及すると、国交省は、「タクシーの運賃改定でもその方向で考えているので、検討の推移を見て欲しい」と回答しました。
 さらに、「社会保険料の事業者負担が増えた場合は、ノースライドを見直したり、賃金配分率を変える」とする事業者がいることを説明し、どう考えるかを問い質しました。
 国交省は「運賃改定の効果が適切には反映されていない事案が判明した際は、当該事業者に対して指導を行う」と答えましたが、実際には実行が伴っていません。自交総連は今後も追及の手を緩めず、要請を続けていきます。

 【厚生労働省交渉】 自交総連は、ライドシェアの全面解禁の議論において、雇用によらない働き方や業務委託など労働者性を否定する動きを指摘。タクシー・バス事業の労働者を守るために、11時間以上のインターバル規制を義務化するように求めました。
 厚労省は、「健康的な生活を行うために、働く方の生活時間の確保が重要。義務化を視野に入れつつ、多くの企業が導入しやすい形で、段階的に実効性を高めるよう努力する」と回答しました。
 さらに、最低限の労働条件の確保についての応答で自交総連は、タクシーの手待ち時間を労働時間から除外する脱法手法を正すことを要請。これに対して厚労省は、「手待ち時間とは、その労働者が使用者から指示があった場合には、即時に業務に従事することを求めており、労働から離れることが保障されていない状態で、待機している時間は労働時間として取り扱われる」としました。

協会一致団結し阻止

全タク連と要請・交渉

全タク連交渉=4月3日、東京・自動車会館
全タク連交渉=4月3日、東京・自動車会館

 自交総連は、日本維新の会が「ライドシェア新法」の国会提出を公表したことから、危機感を持ったとりくみを労使共同で進めることが必要不可欠と全タク連に確認しました。
 全タク連の武居副会長は、「国民に対する安全・安心な輸送サービスを確保すべく、協会一致団結し、全力でライドシェアを阻止する。また、日本維新の会が法案を出した後に解散となる噂も聞いている。国会情勢をみると法案が通るとは思えないが中身については気にしている」とし、「ウーバーは『日本版ライドシェア』の運用を24時間にしたいと考えている。そうなれば全面解禁されたのと同じことになる。雇用を維持させることが重要だ」と話しました。
 タクシー労働者が参入しやすい労働条件については、「産業構造的に考えなくてはならない時期に来ている。他産業でも賃上げを実施していることから、労働者の取り合いになっているので、働き方を見直すとともに、労働時間を短縮しても同程度の給料が取れる形にするなど、労働環境を変えなければ、新たな労働者が入ってこない」と見解を示しました。

詳細1

情報電子版 記事紹介

タクシーと他産業労働者の労働条件比較 2024年
→25年07号

ライドシェア全面解禁阻止統一行動 全国7地域で実施
→25年09号

直ちに対処すべき

空港の白タク実態を視察

東京個人タクシー

羽田空港国際線到着口タクシー乗り場の白タク現場を視察=3月6日
羽田空港国際線到着口タクシー乗り場の白タク現場を視察=3月6日

 【東京】東個労組は3月6日、日本共産党の山添拓・吉良よし子両参議院議員とともに、『羽田空港国際線到着口タクシー乗り場の白タク現場の実態』を視察しました。
 「とにかく現場の実態を見てほしい」という羽田空港で営業する組合員の要望に応え、東個労組法規対策部が働きかけて今回の行動は実現しました。
 当日、それぞれ過密日程の中でしたが「是非やりたい」と現場に駆けつけ、組合員の説明を受けて視察を行いました。
 吉良議員は、同行したメディアによる取材会見で、「大型ワゴン車のアルファードが障がい者用駐車スペースを大きくふさいで停めている。これだけでも排除の対象となるのに野放し状態で、空港警察も排除しない。この理由を国交省や警察庁に公式見解を質したい」と語りました。
 また山添議員は、「明らかに正規のタクシーと違う車両が並んでおり、タクシー営業と一般車両の交通を阻害している。さらに客引きも含めて、正規ルートと違う客の囲い込みビジネスになっているとしたら、利用者にとっては料金のぼったくりと安全性に多大な問題をはらんでいる。これを警察が放置しているとしたら看過できない問題だ。インバウンド増大を喜んでいる反面、あちこちにほころびが出ているのだろう。直ちに対処しなくてはならない」と述べました。
 この視察には、本部の庭和田裕之委員長も同行し、東個労組の秋山芳晴委員長に「すばらしい運動に本部としても感謝に堪えない。皆さんにもよろしくと伝えてください」と話しました。
 今後も、白タク撲滅に向けた東個労組のとりくみ経過をお知らせしていきます。