自交労働者No.952、2021年7月15日

労働者と職場をまもることが重要

21年春闘の評価と今後の課題

コロナ禍でも要求の火は絶やさない=3月5日、東京・国土交通省前
コロナ禍でも要求の火は絶やさない=3月5日、東京・国土交通省前

 自交総連21年春闘は7月8日現在、122組合が要求を提出、うち78組合が回答を引き出し、まだ闘争継続中の組合もありますが、59組合が妥結・了解しています。  政策闘争としては、3・5中央行動で賃金・生活保障の要求を国交省・厚労省、全タク連に出し、要請・交渉を行いました。急浮上したダイナミック・プライシング問題についても、反対声明を国会議員、消費者団体、障がい者団体に送付し、4月2日に内閣府・国交省同席でレクチャーを行い、反対のたたかいをすすめています。

→2021年春闘の回答


数年来の要求かちとる

 神奈川地本の・芙蓉交通支部は、21年春闘において、「累進歩合制賃金」を速やかに廃止し、「積算歩合制賃金」へ移行するよう会社へ強く求め、数年間に及ぶ要求をようやくかちとることができました。
 乗務員は、累進歩合制賃金において越高42万円の設定で上下により大きく格差があり、それでも2公出ができる体制を守る我慢を強いられてきました。さらに45万円の上下でも格差が生じています。
 このような格差を解消するために芙蓉交通支部は、累進歩合制賃金を廃止し、金額に応じた積算歩合制への移行を求めてきました。
 数回にもわたる協議の結果、21年7月分給与より積算歩合制賃金への移行をついにかちとりました。


危機感を高め事前学習を

今春闘のまとめ評価と課題
中央執行委員長 城政利

 今春闘は昨年から続くコロナ禍でのたたかいでしたが、厳しい状況にあっても、労働者の命とくらしを守るためにも全単組で要求を提出して奮闘することが重要でした。
 全体的に現行労働条件を維持させるとともに、雇調金による休業制度の延長を中心として、危険手当の創設や解決金をかちとっています。業界が推進した「働きやすい職場認証制度」は多くの事業者が提出しましたが、申請内容の実効性を追求することが重要となっています。
 一方で低営収の定時制乗務員を中心に雇い止めする事業者もいます。未結集組織では合理化が押しつけられる中、自交総連は合理化を許さないたたかいを強化しました。ライドシェアに繋がるダイナミックプライシング導入阻止のたたかいを重視し世論喚起にも奮闘しました。
 業界ではコロナ禍による高齢者の退職が増加、今年に入り将来展望が見えないと新規採用者も含め若年層の退職者も増加しています。事業存続を諦め身売り・廃業を判断する経営者も出てきています。
 労働者と職場をまもることが喫緊の課題となっており、危機感を高め事前学習など廃業対策のとりくみが重要となっています。

東京都議会議員選挙の結果
菅政権への不信突きつける

本部書記長 菊池和彦

 東京都議会議員選挙が7月4日に投開票され、菅政権への厳しい民意が示されました。
 五輪、コロナ対策などが争点となる中、自民党は当初の勝利予想に反して過去2番目に少ない33議席にとどまり、公明党23議席と合わせて56議席で過半数64を下回りました。
 その要因は、菅政権のコロナ・五輪対応です。東京の感染者が増え続けるなかで、菅政権は五輪の強行開催の姿勢を変えず、ワクチン供給の遅れも明らかになりました。投票率が過去2番目に低かったこともあり、都民は棄権も含めて菅政権への不信を突きつけたといえます。
 都民ファーストは現有45から31議席に減りました。
 五輪の中止を訴えた共産党が18→19、立憲民主党が8→15議席に増やしました。両党は1、2人区などで候補者調整を行い、効果を上げました。市民と野党の共闘がすすめば,近く行われる総選挙でも、自公・菅政権の悪政に審判を下せる展望が示されたといえます。

コロナ危機だからこそ最賃大幅引き上げを

労働者が最低限の生活を維持できるように

中央最賃審議会へ全国一律化を求める意見書を提出

 自交総連は、今年の最低賃金の引き上げ目安を決める中央最低賃金審議会の第1回会合が開かれた6月22日、最低賃金の大幅引き上げ、全国一律化を求める意見書を同審議会に提出しました(意見書)。最賃ぎりぎりで働く自交労働者の実情を訴え、経営危機を招くという経営側の主張に反論、最賃の大幅引き上げを求めています。


 タクシー労働者の労働条件が劣悪化し、経営環境も悪化したのは、02年に実施されたタクシー事業の規制緩和が大きな要因です。
 全体の営業収入が増えないのにタクシー車両だけが急速に増え、1台当たりの営業収入は急減しました。
 この当時多くのタクシー経営者は、賃金が最賃に抵触するようになるまで歩合給の特性に依拠して、1台当たりの生産性の向上という当然の経営努力をしませんでした。それをせずに、支払い能力がないので最賃を上げるのは困るという主張を認めることはできません。最賃を引き上げることは、その最賃を支払えるだけの生産性の向上のための企業努力を経営者に促すことになります。
 新型コロナ拡大が収まらないなか、最賃の補填を受けても、現在の最賃の水準では、到底生活を維持するには足りません。
 生活が維持できず、コロナウイルス感染の危険もあって、昨年以降、タクシー運転者の離職が全国で急速にすすんでいます。最賃を大幅に引き上げて、最賃で生活が維持できるようにしなければ、タクシー事業から労働者がいなくなってしまいます。
 コロナ危機を乗り越え、タクシーの将来展望を開くためにも最賃を引き上げ、労働者が最低限の生活を維持できるようにすることが必要なのです。

1500円の最賃を

全国一律最賃実現とめざせ1500円 7・8集会=7月8日、東京・日比谷野外音楽堂
全国一律最賃実現とめざせ1500円 7・8集会=7月8日、東京・日比谷野外音楽堂

 全労連・国民春闘共闘は全国一律1500円の最賃実現をめざしています。
 全労連が行った生計費調査でも、最低限の生活をするためには時給1500円以上が必要です。最賃を引き上げるにあたっては中小企業への国の財政支援の拡充も求められます。

休息期間11時間、改善基準の法制化を

改善基準告示改正についての意見書 全委員へ提出

 自交総連は6月18日、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)の改正について意見書を提出しました。
 改善基準告示見直しのための厚労省・労働政策審議会労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会(専門委員会)は、分野別に検討をすすめるため、5月28日にハイヤー・タクシー作業部会の第1回会合をひらきました。今年11月頃には改善基準告示見直し案をほぼ固め、来年2月には報告書を作成、専門委員会の確認を経て同年中に告示改正を公布する予定です。
 自交総連は、タクシー・ハイヤー、バスの全国産業別労働組合として、専門委員会の委員への選任を求めてきましたが委員には選任されておらず、審議の際は、代表が可能な限り傍聴していますが、その場で意見を述べることはできません。専門委員会の審議の結果は、すべてのタクシー・ハイヤー労働者、バス労働者の労働条件に重大な影響を与えるものです。自交総連としての意見がこの先の審議に反映されるよう、専門委員会の全18人の委員へ改善基準告示改正についての意見を書面で郵送しました。

 →意見書

県内で組合づくりの芽

組織拡大調整会議を開催

高知地連

 高知県で全労連組織拡大重点計画へのエントリーをめざす調整会議が7月1日、高知県労連でひらかれ、高知地連の樫原委員長、横田書記長と本部の菊池書記長もリモートで参加しました。
 会議では、コロナ禍の自交労働者の現状が報告され、県内でも、○経営破綻したタクシー会社が統合した新会社で勤務条件をめぐって相談がある、○観光バス・タクシーの会社の運転者から労務管理の相談がきている、○タクシーのキャッシュレス決済手数料を運転者が負担させられ、不満が広がっている――など組合づくりの芽があることが出され、準備をすすめていくことを確認しました。

307自治体でタクシー・バスを活用

運転者・事業者にとっても貴重な輸送需要に

ワクチン接種でタクシー・バスが活躍

 新型コロナウイルスのワクチン接種に、各地でタクシーやバスが活用されています。
 国土交通省がまとめた集計によると、全国1741市区町村のうち307の自治体でタクシー・バスが活用されています(4月末時点)。
 類型で分けると、◆接種対象者に乗車券を配布(142地域)、◆接種対象者を運送(183地域)、◆医療従事者が接種対象者を訪問接種、車両を接種会場や待機場所として使用(7地域)となっています。高齢者や障がい者など移動困難者を対象とするものが多く、過疎地域において住民の移動手段がない問題が根底にあることがわかります。
 そのなかでも、自交総連が地方都市・郡部における公共交通のあり方として提言している乗合タクシーやコミュニティバスが大活躍しており、交通不便な地域において国の助成制度を改善し、補助金を大幅に増額することの重要性が再確認できました。

具体的な活用事例

 具体的な活用事例をみていきます。
 大分の国東市では移動困難な高齢者へタクシー券(5000円分×4枚)を支給、和歌山の上富田町では貸切バスでコミュニティバスの各停留所を巡回し接種会場まで輸送が行われます。
 千葉の勝浦市では移動式ワクチン接種会場としてバスが市に借り上げられ、奈良の御杖村では村内のデマンドタクシー・介護タクシーを利用した場合は運賃額が助成されます。
 この先もワクチン接種でこうしたタクシー・バスの活用が期待されます。公共交通機関としての役割を果たすと同時に運転者・事業者にとっても貴重な輸送需要となります。

 →詳細

ライドシェアとの結びつき示す

Uberが変動運賃制度の変動幅拡大を求める

 ウーバー・ジャパンは6月1日、報道陣を対象とした勉強会を都内でひらき、ダイナミック・プライシングについて説明しました。この仕組みによってタクシー事業者、利用者双方にメリットがあり、オフピーク時の新規需要の開拓などによって売上を高められるなどとし、国交省が考えているとされる上2割増し、下1割引きの幅より大きな変動幅とするのが望ましいと見解を示しました。
 ウーバーは、割引を実施したら利用が増えたなどのデータを示しましたが、同社の顧客だけを対象にした実証実験で一般化できるとは思えません。
 同社がダイナミック・プライシングの有効性を盛んに宣伝するのは、市場原理にもとづく価格決定方式であるダイナミック・プライシングがライドシェアに深く結びついた仕組みだということを示しており、タクシー運賃が持つ公共性の観点はまったく抜け落ちています。

 →詳細

移動制約者にもっとタクシーを

国が公共交通を維持する政策提言

交通運輸政策研究会(交運研)第31回総会

あいさつをする城副委員長=6月27日、東京・お茶の水トライエッジカンファレンス
あいさつをする城副委員長=6月27日、東京・お茶の水トライエッジカンファレンス

 労働組合と研究者でつくる交通運輸政策研究会(交運研)の第31回総会が6月27日、都内でひらかれ、新たな政策提言策定をすすめるなどの運動方針を決めました。
 総会では、移動貧困社会からの脱却と題してモビリティジャーナリストの楠田悦子氏が講演、地方の免許返納者などの移動制約者にタクシーがもっと役割を果たせるのではないかと提起されました。
 政策提言は、コロナで明らかになった新自由主義の交通政策の矛盾を乗り越えて、公共交通の維持に国が積極的にかかわることなどの政策を検討しています。
 副会長に自交総連城委員長が再任されました。